「ふつう」ってなんだろう?
脳の多様性を知る、はじめの一歩。
発達障害は、特別なことではありません。それは、一人ひとりのユニークな脳の特性。 「怠け」や「わがまま」といった誤解をなくし、科学に基づいた正しい理解を広げましょう。
発達障害とは?
発達障害は、病気ではありません。生まれつきの脳機能の働き方の違いによるもので、その特性は一人ひとり異なります。決して「親の育て方」や「本人の努力不足」が原因ではありません。
- 神経生物学的な起源: 脳の発達経路や機能的構造に根差した、生まれつきの状態です。
- スペクトラム(連続体): 特性の現れ方には個人差があり、「ある/ない」の二元論ではなく、多様なグラデーションとして捉えられます。
- 複雑な原因: 特定の遺伝子一つではなく、多くの遺伝的要因と、胎児期からの様々な環境要因が複雑に絡み合って影響すると考えられています。


痛ましい誤解の歴史
私たちの理解は、常に正しかったわけではありません。科学的根拠のない理論が、多くの家族を苦しめた暗黒時代がありました。
- 「冷蔵庫マザー」説: 20世紀半ば、「母親の愛情不足が自閉症の原因」という誤った心因論が広まり、母親たちが不当に非難されました。
- 当事者運動の力: 親たちによる粘り強い運動が社会を動かし、日本でも2004年に「発達障害者支援法」が成立。支援体制の構築が進みました。
- 理解の進化: 科学の進歩と当事者の声により、理解は「非難」から「解明」へ、そして「権利とインクルージョン」の時代へと移行しています。
新しい視点:ニューロダイバーシティ
発達障害を「欠陥」や「治すべきもの」と捉えるのではなく、人間の自然で価値ある「多様性」の一部として捉える考え方です。
強みに基づく視点
「過集中」や「独自の視点」など、特性が並外れた才能や強みになることがあります。歴史上の偉人にも、発達障害の特性を持つと推測される人物が数多くいます。
社会モデル
困難は本人の中にあるのではなく、多数派に合わせて作られた社会の側にある「障壁(バリア)」との間で生まれる、という考え方です。
インクルーシブな未来
脳の多様性を活かす職場や教育は、イノベーションを生み出し、組織全体を強くします。インクルージョンは「コスト」ではなく「投資」です。
私たちができること
特別な知識がなくても、一人ひとりの意識と行動が、誰もが生きやすい社会をつくります。
合理的配慮を理解する
個々の困難に応じた環境の調整は「優しさ」ではなく「権利」です。例えば、口頭だけでなく文章で指示を伝える、静かな環境を用意するなど、職場や学校でできることはたくさんあります。
「普通」を問い直す
自分の「当たり前」が、他の人にとっては当たり前でないかもしれません。行動の背景にある困難を想像し、罰ではなく支援で応えることが大切です。
正しい知識を学ぶ
誤った情報や偏見に同調せず、信頼できる情報源から学び、周囲に伝えていくことが、社会全体の理解を深める力になります。

よくある質問 (Q&A)
発達障害に関するよくある疑問に、科学的根拠に基づいてお答えします。
A. いいえ、全く違います。 発達障害は、脳機能の発達に関わる生まれつきの特性です。かつて「冷蔵庫マザー」説のような誤った心因論が存在しましたが、現代の科学はこれを完全に否定しています。親の育て方が原因で発達障害になることはありません。
A. 違います。 発達障害の特性として見られる行動(例:集中が続かない、こだわりが強い)は、本人の意図的な「わがまま」や「努力不足」ではありません。これらは、脳機能の違いから生じる、本人にとってもコントロールが難しいものです。
A. 主に「認知度の向上」が理由です。 社会全体で発達障害への理解が広まり、これまで見過ごされてきた人々が診断・支援に繋がるようになったことが大きな要因です。「急に増えた」のではなく、これまで「見えなかった」人々が、正しく認識されるようになった側面が大きいと言えます。
A. 「治る」という概念は適切ではありません。 発達障害は病気ではなく、生まれつきの脳の特性です。しかし、療育や環境調整などによって、特性に伴う困難を和らげ、社会生活での適応能力を高めることは十分に可能です。支援の目標は、特性を「消す」ことではなく、本人がその特性を活かし、自分らしく幸福に生きていけるようにすることです。